パワハラ110番

パワハラの定義と判断基準を学ぶA

厚生労働省外郭団体 中央労働災害防止協会
 「職場において、職権などの力関係を利用して、相手の人格や尊厳を侵害
する言動を繰り返し行い、精神的な苦痛を与えることにより、その人の働く
環境を悪化させたり、@あるいは雇用不安を与えること」

 

解説

大まかには、クオレ・シー・キューブの定義とほぼ同じです。ただ、労働災害防止のための様々な活動を行っている機関ということもあり、雇用不安についても触れられているのが特徴的です(@)。

 

パワハラを受けたことでメンタルヘルスが悪化し、長期休業を余儀なくされる労働者が増えている昨今、「このまま休み続けたらどうなるんだろう」、「自分はまた職場に戻れるのだろうか」、「自分は以前のように働けるだろうか」と自身の“これから”に言いようのない不安感を抱いている人は少なくありません。
休業にこそ追い込まれていなくとも、パワハラの被害者は誰しも「自分もうつ病になって働けなくなるんじゃないだろうか」、「あのパワハラ上司のせいで会社を辞める羽目になったらどうしよう」といった雇用に関する不安を抱えていると言っても過言ではないのです。

 

ここまで、パワハラの定義について解説してきました。しかし、労働者のみなさんからしてみれば、次のような声が本音ではないでしょうか。
「それって机上の空論じゃない!?」
「実際にはどういう行為が該当するのか、明確な判断基準ってないの?」

 

…確かに、定義だけを知っていても、「じゃあ、こういうケースは?」と聞かれると判断に困るでしょう。そもそもパワハラは、発生した状況や被害者・加害者の関係性、被害者側がどのように感じたのか等、“文脈“を考慮しなければならない問題であるため、白黒つけること自体が非常に難しい問題です。
しかし、判断基準を項目ごとに整理し、「これは当てはまるだろうか?」と一つ一つ確認していくことで多少なりとも問題を分かりやすくすることが可能です。ここでは、臨床心理士である涌井美和子氏が提唱している判断基準をご紹介します。

 

パワハラの判断基準

 

パワハラ判断基準1: 行為について考えてみよう

どのような行為を受けたのか、その具体的な内容を書き出してみましょう。さて、その行為は、労働法規(労働基準法や雇用機会均等法、派遣法など)に違反しているでしょうか?または、刑法に抵触しますか?傷害罪、暴行罪、名誉毀損罪、侮辱罪、脅迫罪といった罪に問われる行為である場合もありますので、よく吟味してください。(パワハラと刑法の関係については、第6章で詳しく説明します)

 

パワハラ判断基準2: 時間的経緯について整理してみよう

多くの場合、パワハラは単発ではなく継続的に繰り返され、徐々に行為がエスカレートしていくものです。もちろん、肉体的な暴力であればたった1回でもパワハラに該当しますが、例えば言葉による暴力や嫌がらせ行為は、時間の経過と共に陰湿になっていくケースが多いようです。
あなたが受けている行為は、どのくらい前から続いているのでしょうか?
また、徐々に悪質になってきていると感じることはないでしょうか?
思い当たるようならば、パワハラに該当する可能性が高いと言えます。

 

パワハラ判断基準3: 心理面について見極めよう

同じ行為であっても、行為者と被害者の心理面の有りようによって、パワハラに該当する場合と該当しない場合があります。行為者に悪意があるか・ないか、反省しているのか・していないのか、また、被害者が精神的にダメージを受けているのか・いないのか…。これらは、目で見て判断するのが難しい分、見極めるのは非常に困難です。対話を重ねて判断するということになるでしょう。

 

パワハラ判断基準4: 状況要因はどうだったのか?

行為者と被害者の間には、どのような関係が成立していたのでしょうか?上司と部下という関係は最も分かりやすい例ですが、その他にも、学歴の高い者と低い者、早く入社した者と後から入社した者、正社員と派遣社員…等々、職場には様々な力関係が成立しています。中には、性格の明るい・暗い、既婚・独身といった違いが不均衡な力関係を生みだすこともあります。
また、このような力関係がパワハラの原因となった“環境”にも目を向ける必要があります。上司の権力が絶対的な職場であれば、たとえその上司が明らかに間違ったことを言っていても部下は誰も逆らうことができず、結果としてパワハラ行為に対しても見て見ぬふりを貫いてしまうでしょう。また、学歴の高い人たちが優遇される風土の職場であれば、自ずと低学歴な人たちが虐げられる雰囲気ができてしまいます。
このように、行為の背景にある「力関係」、そして、それを生みだした環境を見ていくことで、それがパワハラかどうかの判断につなげることが可能です。