パワハラ110番

どんな職場で起こりやすいか

パワハラは、個人の性格に起因するものと思われがちです。確かに、些細なことですぐにキレる人もいれば、何があっても動じない人もいます。繊細で傷つきやすい人もいれば、鈍感であまり色んなことを気にしないタイプの人もいるでしょう。
しかし、パワハラの発生は、当人同士を取り囲む環境にも大きく左右されます。仏のような寛容な心を持っている人でも、全く余裕のない環境に置かれれば人に優しくできなくなってしまうかもしれません。
ここでは、パワハラが起こりやすい職場環境について見ていきましょう。

 

人的交流が少ない職場は力関係が固定されやすい

 ある程度の企業規模になると、数カ月に1度は組織変更にともなう人の異動があると思います。あまりに頻繁に異動があって、もううんざりというケースもありますが、実はこの組織異動はパワハラ対策として有効な手段なのです。
なぜなら、人的交流の少ない閉鎖的な職場は、パワハラの問題が起こりやすいからです。規模の小さい企業では特に多いようですが、特定の固定化したメンバーで仕事を進めているような場合は自ずと力関係も完成されていきます。権力を持った人の感情が職場環境を支配するという状況が公然とまかり通るようになり、そして、おかしいと思っても誰もそれを注意できないという状況が生まれてしまいます。その結束は想像以上に強く、内部から誰か1人が声を上げても、他のメンバーによってもみ消されてしまうことがあります。そうなると、外からの力が及びにくく、事実上放置されてしまうことになりやすいのです。
そういった中に新しいマネージャーが入ってくると、職場の風通しを良くするという意味では非常に有効です。人によっては、今まで誰も立ち入ることができなかった人間関係にメスを入れて、ゆがんだパワーバランスを修正してくれるかもしれません。
ただし、外から来てまた数カ月後には他の拠点へ異動になるようなマネージャーよりも、その職場に古くから居る平社員のほうがパワーを持つ場合もあります。中には、拠点の社員全員を味方につけて、新しくやって来た上司にいやがらせをするというケースもあるようです。このような例でもわかるように、パワハラの「パワー」とは、役職が上の人⇒下の人という方向で起こるとは限らないのです。

 

仕事量が不適切で余裕がない職場は人に対して思いやりを持てない

みなさん、一度、ご自身の職場の様子を見渡してみてください。暇そうに居眠りをしている人が多いですか?それとも、忙しそうでイライラしている人が多いでしょうか?最近は、職場の人員が減らされて1人ひとりの業務量が激増している職場も多いようですが、人を解雇することに対してまだまだ弱腰の日本社会では、定年間近で前戦を退いたような人たちも手厚い給与待遇・福利厚生で守られています。
しかし、実は、この業務量の偏りがパワハラ発生の原因の一つなのです。
みなさんも経験があると思いますが、忙しい時、人はココロの余裕を失うものです。しかも、その忙しさや頑張りが報われればまだ救いがありますが、最近は社員が頑張っても会社の売上につながらないケースが多く、ボーナスや昇給も期待できない企業が多いという現状です。
そのストレスをどこに向けるか?
…人間とは弱いもので、自分が叶わない強い相手から受けたストレスを、自分よりも立場の弱い者に対して向けて発散することがあります。例えば、部下を必要以上に叱りつけたり、わざと大きな音を立てて物に当たったりするケースですね。自分が置かれている状況に余裕がないと、相手がどう感じるのか、相手はどう思うのかを考えることができなくなってしまうのです。
逆に、暇過ぎる場合も困ったものです。仕事の量自体が少ない、または単調で退屈な仕事ばかりしていると、それもまたうっぷんが溜まります。「こんな成果を上げたぞ!」という満足感や達成感を得られにくくなるため、何か他に面白いことを見つけようとするわけです。それがプライベートの趣味に向いてくれるならばありがたいのですが、人によってはそれが部下イジメに向けられることがあります。暇なわけですから、部下の仕事の細かい部分にも目が届くようになりますよね。些細なミスを執拗に指摘したり、何度も何度もやり直しをさせたり…。その粗捜しは、やがて仕事以外の部分、例えば人の性格やしぐさにまで発展するようになります。
このように、忙し過ぎても暇過ぎても、人は自分以外の人に対する思いやりを失ってしまうものです。とはいえ、業務量の分担はマネージャーに委ねられているケースが多いため、個人の力ではどうにもできない問題であることもまた事実です。

 

マネージャーがいいかげんな職場はパワハラが横行しやすい

職場の風通しや、業務量の分担にも関連することですが、職場環境はその職場のマネージャー(責任者)の管理能力の影響を強く受けるものです。マネージャーが職場内の人間関係を把握していない、1人ひとりの業務量を正しく把握していない、業務の進捗把握を怠っている…このような状態は、パワハラの芽を野放しにしているようなものです。マネージャーの知らないところで構築された力関係で誰かがターゲットになってしまったり、特定の人に業務が集中して精神的につぶれてしまったり、業務に取り返しのつかないトラブルが発生してしまうこともあるでしょう。
また、部署のルールが明確でなくマネージャーの匙加減で状況がコロコロ変わるという職場は、パワハラが発生しやすく、生産性も低下しがちな危険な職場です。部下はみんなマネージャーの顔色をうかがって仕事をするようになりますので、白を「白」と自信を持って言えない雰囲気が自然と出来上がってしまうのです。
これに関連して、マネージャーからの指示・命令が曖昧なために起こるトラブルも多いでしょう。例えば、部下が、頼んだはずの資料とは見当違いの物を提出してきた、納期を過ぎても音沙汰がないといった問題は、部下との間のコミュニケーション不全が原因であるケースがほとんど。一方的に相手を怒鳴りつけて屈服させるというマネージャーは、自身のマネージメントに問題があることに気づいていないのです。

 

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このように、パワハラは、個人の性格だけに起因するものではありません。職場環境が変わることによって、今はパワハラを受けている被害者であるあなたが、一転して加害者になることさえ有り得るのです。
そう考えると、パワハラを解決するには個人の内面ばかりではなく、周りの環境も含めた幅広い視点が必要だということが分かってくると思います。